札幌高等裁判所 昭和28年(う)387号 判決
弁護人控訴趣意一の(一)乃至(四)(原判示第一乃至第六につき事実誤認)について。
原判決挙示の証拠によれば、被告人は原判示のごとく所得の調査及びその決定にいたるまでの職務に従事していたものであつて、所得税額の決定は一に税務署長の権限に属するものなること、まさしく所論のとおりである、しかし被告人がかかる職務権限を有しないとしても、その職権を有するものの下級吏員としてその指揮監督の下に所得税額決定の基礎となるべき所得の調査等の職務に従事する以上は、その者をして右職務の範囲内において、所得額の調査につき有利なる取計いをなさしめることを目的として金品の供与をなし、またはその情を知つてこれを受けるがごときはすなわち公務員の職務に関して賄賂を贈与し、またはその収受をなすものに外ならない。しかして原判決挙示の証拠によれば(ただし原判決が判示第一の事実につき挙示せる証人今井慶典は原裁判所においてこれを取調べた形跡がなく、原判決の証拠説明は瑕疵があるとのそしりを免れないものであるが、それは誤記であることは明らかであると共に後述のとおり、その他原判決挙示の証拠によつて原判示事実を認めるに十分であるから、原判決に理由のくいちがいはない)被告人は原判示の各金品が原判示のごとき趣旨の下に供せられるものなることを知りながら、これを収受した事実を認めるに足りその所為が収賄罪を構成すること勿論である。尤も原判示第一の物品の価額は、原判示のごとく僅々金千三百五十円相当のものであつて、儀礼と認めらるべき程度の贈物に過ぎないけれども、かゝる程度の贈物といえども、いやしくも公務員の職務に関し収受せられる以上は賄賂罪の成立することは勿論であつてその額の多少、公務員の社交上の地位若しくは時期の如何を理由として公務員の私的生活に関する社交上の儀礼による贈答と認めなければならない理由はすこしもない。論旨は理由がない。